先輩セミナー2003
―魅力と特色プラン委員会―
開催日および講師紹介
①9月23日(土)
内海 功さん(90期)慈恵医科大学病院麻酔科医
②10月18日(土)
濱野 穆さん(54期)産婦人科医・高齢者福祉
安部 治子さん(91期)助産師
③10月18日(土)
小川高義さん(71期)横浜市立大学助教授・翻訳家
④11月15日(土)
篠崎孝子さん(45期)有隣堂会長
⑤11月15日(土)
中島陽一さん(50期)声楽家
村川静香さん(92期)ピアニスト
⑥12月6日(土)
佐分利昭夫さん(50期)九州工業大学講師
内海 功さん
(90期、慈恵医科大学病院麻酔科医)
「麻酔医って何をする?」。今日は、先ずこれについて話そうと思います。外科医や内科医はよく知られていますが、麻酔科医の仕事は、麻酔をかけることぐらいしか知られていません。実は手術の時、患者の頭のところに立っていて、手術の最中の出血の状況に応じての輸血や点滴、開腹手術時の脱水症状への水分補充など、手術時の患者さんの呼吸・心拍をはじめとして、体調の変化全てにわたって管理していくのが、麻酔科医の仕事なのです。もちろん、手術前に、痛みを取るために患者さんに麻酔を注射し、眠らせることから始めます。もし痛みを取らなければ、手術による痛みのショック症状によって血圧が上昇し血管の破裂の危険性もあるからです。筋肉弛緩剤が入ると、呼吸ができなくなりますから、そのための呼吸確保の器具挿入なども行います。手術前に問診を行い、危険性の説明や生命を守るために何を優先的に処置するかなどについて理解していただく、インフォームドコンセントも重視しています。
手術のある日は、7時に出勤して機材の確認から始まります。麻酔科医がミスをしたら患者は死んでしまいますから、手術中は緊張の連続で、戦場のような有様です。全ての器具は使い捨てですので、手術後に出るゴミの量も、相当なものです。毎日ドキドキの連続です。ただ手術が終われば解放された感じが強いように思います。その点ではストレスのメリハリがあるともいえます。内科医や外科医では患者がずっと入院している訳ですから、気分的には、麻酔科医のほうが、割り切った仕事ができるといえるかもしれません。(実際の器具をお持ちいただいての説明がありました。)
高校時代から大学の話をします。
高3のとき新校舎に移ってきました。1・2年の時、清水ヶ丘の夏のプレハブ校舎は「暑い」の一言です。炎天下、PTAの方々が、屋根に水を撒いてくださったり、その水が教室に水漏れしたり、そういう思い出ばかりです。成績は普通。3年間弓道に夢中になった高校時代でした。
平沼の生徒はよく、やればできると言われていますし、そう思っている人もいると思いますが、「やればできる」と思っているだけで、やらないでいると、いつのまにか「やれる」能力が低下していくのではないかと思います。「勉強すればできる」とだけ思っていると、いつのまにか勉強する能力・持続力がなくなっていくのではないかと最近思っています。
浪人もしました。辛かった。何より友達が支えになりました。幾度か挫けそうになりましたが、感謝される仕事をやりたい、「ありがとう」といわれる仕事に就きたいとの思いで、医学部を選びました。麻酔科医はあまり感謝されないのですが、すべて患者さんのためになるだろうと思ってやっています。大学の創始者の言葉に「病気を見ずして病人を診よ」というのがあり、その思いで、患者さんに接しています。
大学の勉強は大変でした。想像できないほどの量でした。積み上げたら自分の肩ぐらいまでの問題集をいっぱいやらないとパスしない試験ばかりでした。勉強の面では気楽にできませんでした。医学部に入るときは理系ですが、入った後は文系だなあと思います。覚えることが膨大ですから。大学時代の楽しい思い出は、平沼で弓道部のコーチを3年間やったことに尽きます。
初めての解剖は普通の精神状態ではないものでした。それも慣れていくものです。学生同士の初めての採血も緊張しました。初めての手術では、手術室にいることそれだけで緊張しました。出血の多い手術でした。その緊張感がそのまま『医療の現場にいるんだ』との実感だったように覚えています。
(その他、研修医のエピソードをはじめとして、プライベートなこと予備校のことなどお話いただきましたが、紙面の都合上割愛させていただきました。)
【生徒の感想】
- 麻酔医の仕事をしているので、きっとピリピリしているエリートなのかな、と思っていました。けれど、実際に前に立っていた人は、予想とはうらはらで、オシャレなヘアスタイルをした、今風のお兄さんでした。
けれど、話を聞けば聞くほど、大変な努力を積み重ねて、今この場に立っている人なんだな、と感じました。
内海さんは仮校舎でのお話や、部活動のお話しもしてくれました。浪人はしたけれど、部活も精一杯できたそうだし、かけがえのない高校生活ができたんだな、と思うと、少しうらやましくて、自分もそんな楽しい高校生活をおくりたいと強く感じました。
話の中ですごく印象的だったことは、内海さんが、「医学部を受験する時は理数系だけど、実際に入ったらやることはもう…文系だよ。」ということを言ったことです。大学の1回のテスト範囲の本など全てを積み上げたら、肩の高さくらいまであるらしくて、とにかく暗記することが、とんでもなく多いそうです。気の遠くなりそうな話でした。そんな、とんでもないことを、この人はやってきたんだと思うと、これが本当の『努力』というべきことだな…と、軽々しく『努力』という言葉を使っている自分が恥ずかしくなりました。
今の私ができる『努力』…もちろん夢だけではなく、日々の勉強でも部活のなかでも、なりたい自分になるための本当の『努力』をやれるように、毎日を過ごしていきたいです。『努力』はいつか、いろいろなカタチで表れてくる。これが私が内海さんのお話を通して得た大切なことです。
- 私はこの先輩のセミナーを受講するまで「麻酔科」という科を知りませんでした。セミナーで内海先輩から麻酔科の仕事や手術のこと等を伺って、麻酔科医というのは縁の下の力持ち的な存在なのだなぁと思いました。そして、手術を執刀するのは外科医だけど、手術を受ける患者さんの身体的なことを知り、手術について説明をして、手術の際にとても重要な役割である麻酔を打つという、とても大切かつ責任のある仕事をしている麻酔科医を、私はとても尊敬します。
また、セミナーでは実際のオペ室や医局の写真を見せていただいて、16年間手術室や入院とは全く縁のなかった私も、医療に関する知識を深められました。手術での出血量や、1回の手術から出るゴミの量にもとても驚かされました。そして実際の手術でのお話を伺って、手術というのは医師と患者との信頼関係がとても大切で、手術中は外科医の先生を中心に、麻酔科の医師や看護師たちのサポートと団結があってこそ、どのような手術でも進行していけるものなのだなぁと改めて感じました。
私は今回のセミナーで心に残っている言葉が三つ程あります。まず一つ目は『無駄な勉強なんて一つもない』という言葉です。次にニつ目は『やればできる、と言っているうちに"やる"という能力が無くなっていく』という言葉です。このニつの言葉は、高校に入学してからのんびりしすぎてしまい、勉強するという姿勢を失いがちであっ た私の心をつくものでした。そして三つ目は、慈恵医大の理念である「病気を見ずして、病人を診よ」という言葉です。とても素晴らしい理念だなと思います。