思いのままに/江蔵耕一さん(62期)

新型コロナ渦からちょうど一年以上たったが今年のわが家の「紅白」の梅はまだ咲かなかった。いつもなら、二月中旬には一年の初めに咲く魁(さきがけ)の花としてその地位を確保しているのだが、今年は天候ももちろんのことであるがコロナ渦のことを思って咲かないのだろうか。
鉢植えで買ってきたものであるが、大きくなってきたので、庭に植えかえたのである。ちょうど玄関脇にあるので朝夕見ることになる。枝が大きくふたまたに分かれ、向かって右側が「白」、左側が「赤に近いピンク」の色をつけて
楽しませてくれる。


それは平成24年3月14日の午後の出来事であった。その日は同人誌の編集・校正のお手伝いに横浜駅西口の北側にある県民センターに出かけた。
小山さんを中心に各担当の方々がいつものように和気あいあいとして、編集・校正の作業にいそしんでおられる姿を拝見して、この会に入ってよかったなあと実感できるのである。
特に普通の会社などの会議と異なり、年齢の幅もさることながら、メンバーの中にはお茶菓子や名産品を配布されていて非常に感動を覚えたのである。

私の小さいころの田舎では部落の寄り合いでいつもお茶菓子がでて子供であったわたしはそのお茶菓子が非常に美味であったのを今でも覚えており、母に寄り合いに連れて行ってもらえるのが楽しみだった。

前回は何も持っていかなかったので今回は横浜駅西□のダイヤモンド地下街で仕入れて持っていった。

お茶菓子を□のなかにほおばりながら、ちょっと一休みして、季節の話題に入った時のことだった。

咲かない梅の話のなかで私が「うちの梅は二股になっていつもだったら紅白の花がきちんと分かれて咲いているのに」
と言ったら都筑さんが「あら、きちんと分かれて咲く紅白の梅ってなんて言ったかしら?変わった名前がついているのよね。友達から先日聞いたのに忘れてしまったわ、え一と、あるがままとか、お気に召すままとか、何とかままって言うんだけど、思い出さないわね、ちょっと、友達にメールしてみるわ」

と言いながら彼女はメールしたがすぐに返事がなく、

「ちょっと連絡取れないんで主人に調べさせて
みるわ」
と電光石火のごとくすぐさまご主人にメールしたのである。
しばらくすると、メールの画面を見ながら

「そうそう思い出したわ、思いのままって言うんだって」

私は「いい名前ですね」と言いながらどうして「思いのままに」の「に」をつけなかったのか非常に気になった。

「に」は助詞であるが、家に帰って広辞林を引いてみると、「に」は格助詞の意味として「場所」「時間」「帰着するところ」「出所」「原因」などを示すが「動作」や「状態」を示す意味もあり、例として「細かい雨がすきまもなしに降り込めている」と書いてあった。

たった「に」という一字であるが、花が咲いている状態を表す言葉であり、日本語のすごい意味がそこに込められていると思うと文章の
「て・に・を・は」はやはり大きな意味があるんだと思い知ったのである。

「に」はさらに接続助詞として前置きを述べて本論の内容の接続させる意味や終助詞として惜しむ気持ち(感情)を意味するとして「お母さんが生きていたらこんなことにならなかったでしょうに」と書いてある。

紅白の梅に「ありのまま」と名づけた人はたぶん名詞としての意味をもたせるためにあえて「に」をつけなかったのかもしれない。
でも、個人的にはあえて「に」をつけてほしかったのが偽わざる気持ちである。「に」をつけたほうが紅白の梅に対する「感情」の表現が適切に示されていると思うからである。

つまり、「思いのままに」の「に」は終助詞であり、花に対する思いがあり、「紅白」という二色の花が思いのままに咲いてほしいという感情が「に」に込められるからである。

なぜなら花の美しさや、咲いている状態を見て、人は自分の感情を花に移入できるのである。
昔から「花言葉(はなことば)」が存在するのも花に対する人の気持ちの表れにほかならない。

薔薇は「恋愛」を白百合は「純潔」を意味することで有名である。

梅の花言葉は「高潔」「上品」白梅は「気品」となっているが春の花である桜は「すぐれた美人」「淡白」「きまぐれ」ともなっておりちょっとかわいそうな気がする。

水仙は「うぬぼれ」、桃は「チャーミング」、菜の花は「快活」、フリージアは「無邪気」、アネモネは「真実」、すみれは「誠実」となっている。

古来より人と花の関係は密接な関係がある。源氏物語の美人を表す言葉として花の名前を登場人物につけたり、花は季節を表すことはもちろん、俳句の季語や季節の行事とか星占いにも登場するのである。


西洋でもこと星占いについては、誕生石とおなじくらい花は幸運をもたらすものとして重要視されている。

ちなみに各星座の幸運の花は次のとおりである。

  • おひつじ座(3月21日~4月20日生まれ)はひな菊が最上。
  • おうし座(4月21日~5月21日生まれ)は薔薇とすみれが最上。
  • ふたご座(5月22日~6月21日生まれ)は紫苑と野薔薇が最上。
  • かに座(6月22日~7月23日生まれ)は月見草と百合が最上。
  • しし座(7月24日~8月23日生まれ)はひまわりが最上。
  • おとめ座(8月24日~9月23日生まれ)は鈴蘭と露草が最上。
  • てんびん座(9月24日~10月23日生まれ)はあじさいが最上。
  • さそり座(10月24日~11月22日生まれ)は菊と蘭が最上。
  • いて座(11月23日~12月22日生まれ)はひいらぎと山百合が最上。
  • やぎ座(12月23日~1月20日生まれ)はりらとけしが最上。
  • みずがめ座(1月21日~2月19日生まれ)は桜草と椿が最上。
  • うお座(2月20日~3月20日生まれ)はスミレと姫百合が最上

 


ところで、星占いは太陽がとおる黄道にある星座から占うやり方であるが、正確にやるには、「ホロスコープ」というそれぞれ個人の設計図を作成する必要があり、誕生年月日と、誕生時刻(何時何分)、生まれた場所の緯度が正確にわかっていないとできない。双子が共通の性格を持つのは三つの条件がほぼ一致しているからだといわれている。但し、星占いの根拠は昔の天動説が基礎だから今の地動説から見ると科学的ではないことを念頭に置く必要がある。

それにしても、週刊誌やテレビで出てくる今日の占いとか、今月の占いとかはほとんどあたらないと言ってよい。


なぜなら、誕生時刻や生まれた緯度により、個人個人のホロスコープは全部異なるのであり、生まれた月日だけでは設計図は作れないからである。
つまり、すべての人は特定の惑星の影響だけでなく太陽を中心に他の惑星の影響を受けており何々座だからこの人はこんなタイプだとはいちがいに決め付けられないのが星占いの本質なのである。

当方は趣味でこれまでサービスとして百人ぐらいの「ホロスコープ」を作成してきたがそれでも当たる確率はほぼ五分五分である。
どうしても占って欲しい方は具体的には、母子手帳や医師の出生証明書が必要となる。なぜなら、そこには三つの条件がすべて書き込まれているからである。但し、星占いも「遊び」の一つだと思えば気が楽である。

昔から「冬きたりなば春遠からじ」の言葉があるように、季節はめぐり、かならず春は来る。
花達もそれは毎年感じているに違いない。


最後に、もう一度広辞林を引いてみると「思いのまま」の意味は「心の思うまま」「思うさま」「思う存分」と書いてあり、名づけ親はたぶん「思う存分」に咲いてほしい気持ちでつけたのではないだろうか。

2021年09月09日|公開:公開