根付師の陽佳です。/向田陽佳さん(84期)

ブログに載せきれない作品画像や細かい説明、そして作品にこめる思いや“こだわり”など作品にまつわるアレコレを、自分で撮った作品の記録画像と一緒にnote(※1)に書き留めていきたいと思います。

 

 



●着物のシワにこだわる


子供の頃から「きもの」が生活の中に普通に存在していたせいか、気が付いたらかなりの着物好きになっていました。

両親とも “ 家着 (いえぎ) ” として普段着の「きもの」を普通によく着ていたものです。

父は会社から帰宅するとスーツを脱いで冬は「ウールの着物」に、夏は「木綿のゆかた」に着替えておりました。母は身体が弱かった事もあり、寒い季節は身体を冷やさない為にほば毎日「ウールの着物」を着ていた記憶があります。わかりやすい例えを言うならば、サザエさんの波平さんとおフネさんのような感じだったでしょうか。

私自身も子供の頃、寒い時期に風邪を引いて発熱し、やむなく幼稚園を休むような時は「ウールの着物」の三つ身か四つ身を着させられていました。

母や叔母は「具合が悪いときは、背縫いのある着物を着て休みなさい。その方が身体が養生するから」といつも言っていたもので、なるほどそういうものなのかと思って育ちました。

今思うと、子供の着物に縫い付ける「背守り」と同じ理由なのかもしれません。“背から魔が入る”のを守るために、背縫いのない赤ん坊の着物は背縫いの飾りを縫い付ける習慣が着物にはありますので…


あっ、話が逸れてしまいましたが、そんな環境で着物に親しんで育ったせいか、根付師になって着物姿の根付を創ろうとすると、着物のシワやヒダの入り具合が果たしてこれで良いのか…実際このようなシワができるのか…どうしても気になってしまうのです。

着物好きが高じて少しだけ和裁を習っていたこともあり、着物の基本的構造は把握できているので “ 手をこう動かすと、ここにはこのようなシワやヒダができるはず ” と頭の中で大体はイメージする事が可能です。しかし、普段自分がとらないようなポーズの場合、どこにどのような形のシワやヒダが出来るのか自分では今一つわからない点があり、そうなると気になって仕方がなくしっかり確認してからでないと作品が創れないのです。

「根付(ねつけ)」は、日本の“きもの”という服飾文化とともに江戸の初めに生まれた実用装飾品です。洋装のようなポケットがない為、印籠や煙草入れ、巾着などの提げ物を携帯する際、それらに紐をつけて腰の帯からぶら提げる為のいわば“留め具(ストッパー)”の役割をしていました。

突起や細い部分など強度的に弱い箇所があると帯やベルトにくぐらせて使用する際に破損してしまう為、実物どおりや見た目どおりの形のまま彫刻したのでは根付として使用できないので、その形をデフォルメさせていかなければなりません。

とすると、着物のシワも実際の通りそのままに表現しなくて良いのですが、やはり着物の構造と身体のラインからあまりにも逸脱したデフォルメはどうしても違和感が出てしまい着物好きとしては何とも居心地の悪い作品となってしまうので、毎回実際のシワやヒダを確認し把握した上で根付らしくまとめていくことに拘ってしまいます。

 

 


●歌舞伎根付〜助六の場合〜

■掲載作品:根付「歌舞伎十八番 助六」2020 陽佳 作 ( 個人蔵 )

 


この根付作品「歌舞伎十八番 助六」は浮世絵にも描かれている見栄のポーズをモチーフにしていますが、参考にしている浮世絵は正面の姿が多い上に、浮世絵自体がすでにかなりデフォルメされた二次元表現ですので、果たして実際のシワにどこまで近いのかがわかりません。かといって歌舞伎の舞台を観に行っても、助六の見栄を後ろから観ることはできませんので、最終的には自分で着物を着て同じようなポーズをとり、実際のシワやヒダを様子を写真に撮って自分なりに確認し把握してから、根付としてデフォルメさせた構図を考えていきます。



 

⬆︎こちらがシワ&ヒダ確認の用にポーズした写真、足袋のシワの出方もチェック。


 

⬆︎紐を通す穴も、できるだけ着物の構造を崩し過ぎず、且つ提げ物の留め具として腰につけた時にバランスよく重心がとれる位置を考慮して。

 

⬆︎実際の全てのシワやヒダを作り込むのではなく、重要なラインを強調し、根付として成立する強度を配慮しながら少しづつ細かく彫り進めていく。


この後ろ姿の画像をしっかり見て記憶しておけば、あとは頭の中でこれらのシワやヒダを少しずつ動かして違和感ないようデフォルメしていきます。

さすがに帯に差された“助六トレードマークの尺八”や“長い刀”は実際に腰に差して撮れませんので、これも頭の中で帯に差した姿に変換させていきます。

 

 

 

 

●根付師は観てきたような…


何としても確認できず、また確認したとてそのまま彫ったのでは根付にならない場所が、「着物姿の真下からの図」。。。これはもうほとんど想像で形をまとめていきます。


“講談師、観てきたような嘘をつき” 


 という言葉がありますが、根付も同じく


“根付師は観てきたような嘘を彫り”


と言っても過言ではないかもしれません…(↑私が勝手に作った言葉です)

でもこれこそ根付の特徴であり、面白さの1つと思って大胆に創り込みます

⬆︎ガラス板の上でポーズしてもらわない限り、この真下から図は見る事ができないのですが、これはもうさも実物を観てきたかのように長襦袢や重ね着の裾を頭の中で想像して構図をまとめて彫り進めていきます。

 

 


●シワの出方をチェックするには


さて、実際にシワやヒダを確認するために何度となく着物をきてポーズをとったり、とってもらったり(父が元気な時は父にモデルをしてもらうことが多かったです)してきて体得したことが1つ。

シワやヒダを確認するために着る着物は、できるだけゴワッとした麻や木綿やウールが良いこと。正絹などの柔らかい生地は身体のフォルムに添いすぎて大きなヒダの動きが把握しにくいのです。作品の題材によっては絹物の身体にまとわりつくようなシワが必要な時もありますが、歌舞伎や能、狂言などの型がある姿の特徴を捉えるには、硬めの張りのある着物がシワを把握しやすい気がします。

今回のポージングに使った着物は叔母が若い頃真夏によく着ていたという「麻の長着」です。流水紋を思わせるような柄を青色と緑色の細い糸で織り出してある夏の単衣で、とても涼しく着やすく、今は私のお気に入りの夏の一枚となっています。

⬆︎自分の作品の記録写真を自分でしっかり撮ろうと決意し、初めてマイカメラを購入した時に着ていたのもこの麻の着物。お店で初期設定をしてしてもらい、その場で持参した自分の根付を真剣に試し撮りしている姿。この肩あたりのシワの出方も根付を創る時の参考になります。

◇今回は最近更新したばかりのブログ記事の紹介作品

http://yokanonetsuke.blog.fc2.com/blog-entry-86.html

と連動した内容になりました。ブログでは完成作品の紹介を主にし、ここnote(※1)ではさまざま切り口で色々な作品を多様な視点からまとめた記録にしていくつもりです。


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真澄会は、ご本人より直接許可を得た上で掲載しております。

今回の記事は、向田さんのnoteより抜粋いたしました。

※1:向田さんのnoteは、こちらです。(https://note.com/netsuke_artist/n/n99cc58ccc177

なお、向田陽佳さん(84期)は、2020平沼アーティストのページでも紹介しております。

2020平沼アーティストは、こちらです。(https://masumikai.securesite.jp/sp20/sp_main/at01/)

2021年09月28日|公開:公開